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福岡地方裁判所 昭和35年(ヲ)313号 決定 1960年5月12日

申立人 三池炭鉱労働組合

相手方 三井鉱山株式会社

主文

申立人の本件異議の申立は、これを却下する。

理由

一、本件異議の理由は、別紙申立の理由記載のとおりである。

二、そこで、右異議理由の当否について判断する。

福岡地方裁判所が、申立人組合と相手方間の同庁昭和三五年(ヨ)第一七七号立入禁止、業務妨害禁止等仮処分事件の決定にもとづく同庁昭和三五年(モ)第六〇二号執行処分申請事件について、昭和三五年五月一〇日に申立人組合主張のごとき決定(以下執行命令という)をなしたことは、本件記録に徴して明らかなところである。

ところで、申立人組合、本件執行命令について、

(一)  前記仮処分決定の不履行を理由にして、執行命令を出すことはできないのであるから、本件執行命令は違法であると主張するが当裁判所は、右主張の如き見解を採用しない。

(二)  次に申立人組合には、右仮処分決定に違反する行為がなかつたのであるから、本件執行命令は違法であると主張する。しかしながら、本件記録によれば、申立人組合は、昭和三五年五月七日、および八日に、右仮処分決定により立入を禁止された区域内に、その所属組合員並びに応援者等を立入らせていたこと、将来においても右区域内へ立入らせるおそれのあることが、認められるので、右主張は、理由がない。

(三)  更に本件執行命令は、申立人組合に審尋の機会を与えないでなされた違法な決定である旨主張する。

本件記録によれば、申立人組合に対する審尋手続のなされていないことは明らかに認められるところである。

しかしながら、仮処分命令の執行は、民事訴訟法七五六条七四八条により強制執行に関する規定を準用して行われるのであるから、執行について、いかなる規定の準用を認めるかは、仮処分制度の特異性を考慮して、決定されるべきものである。

ところで、不作為を命ずる仮処分命令の執行につき、同法七三三条、七三四条、七三五条本文の準用のあることについては多言を要しないが、その際債務者の審尋を義務づける同法七三五条但書の準用をも認むべきかどうかについては、当裁判所は、仮処分制度の特異性とりわけ法が緊急性、迅速性を要求している趣旨からみて、右規定は準用されないものと解する。

しかして、本件執行命令は、申立人組合に対し立入禁止を命じた前記仮処分決定の執行として、同法七三三条を準用してなされた決定であることが明らかであるから、右仮処分決定の被申請人である申立人組合を審尋することは何等必要ではない。従つて、申立人組合の右主張もまた採用しえない。

三、その他本件執行命令の違法性を認むるに足る事由は、本件記録を精査するも認められないので、申立人組合の本件異議申立は、失当であるから、これを却下し、主文のとおり決定する。

(裁判官 中池利男 宇野栄一郎 阿部明男)

(別紙)

申立の理由

一、被申立人は、被申立人と申立人間の福岡地方裁判所昭和三五年(ヨ)第一七七号立入禁止等仮処分事件決定に申立人組合が違反したと称して、福岡地方裁判所に民事訴訟法七三三条一項、民法四一四条三項にもとずく執行命令を申立てていたが、福岡地方裁判所は昭和三五年五月一〇日に、昭和三五年(モ)第六〇二号事件として、つぎのとおり決定した。

申請人の委任する福岡地方裁判所所属の執行吏は、被申請人の費用を以て、次の行為を為すことができる。

1 別紙物件目録添附図面記載の(イ)、(ロ)、(ト)、(チ)、(リ)および(ヌ)、(ル)をそれぞれ結ぶ各線上に高さ二米五〇糎以上の板塀を設置すること。

但し、右(イ)、(ロ)を結ぶ線上には出入口として幅九〇糎の同図面記載の(C)扉を取りつけなければならない。

2 右図面記載の(イ)、(ロ)並びに(ヌ)、(ル)をそれぞれ結ぶ各線上に、鉄道車輌通路として幅四米の同図面記載のA扉およびB扉を設置すること。

3 右図面記載の(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)並びに(リ)、(ヌ)をそれぞれ結ぶ間の建造物側面を板塀を以て閉塞すること。

4 右図面記載の(ロ)、(ハ)を結ぶ建物屋根上に高さ一米以上の山形の板塀を設置し、更に右(ロ)、(ハ)を結ぶ建物地下の部分に板塀並びに扉を設置すること。

二、しかしながら、右決定はつぎの理由によつて違法である。

(一) 福岡地方裁判所昭和三五年(ヨ)第一七七号立入禁止業務妨害禁止等仮処分事件の決定主文第一項、第二項は、

一、被申請人組合は別紙目録記載の物件内に立入り、又はその所属組合員もしくはその他の第三者をして、右物件内に立入らせてはならない。

二、被申請人組合は、別紙目録記載の物件外において、左記行為を実力をもつて妨害し、又はその所属組合員もしくはその他の第三者をして実力をもつて妨害させてはならない。

(1) 申請人会社の指定する従業員(職員、職制並びに三池炭鉱新労働組合員)が右物件内に立入ること。

(2) 右従業員が右物件内において申請人会社の業務を行う。

となつている、しかし、右仮処分決定の不履行を理由にして、前記のような執行命令を出すことはできない。被申立人が申立人を相手に何らかの仮処分命令を申請することができるかどうかは別として、民事訴訟法七三三条の執行命令によつて、前記のような決定をしたのは違法である。

(二) かりに執行命令によつて前記のような決定を出し得ると仮定しても、申立人には仮処分違反の行為はなかつたのであるから、前記決定は違法である。

(三) 民事訴訟法七三五条によれば、同法七三三条にもとずく決定を出すためには、決定前に債務者を審尋しなければならないことになつている。しかるに、債務者たる申立人は、決定前に審尋の機会を与えられていない。このようにして出された決定は、民事訴訟法七三五条に違反して無効である(昭和八、八、九東控民六決定)。

以上(一)ないし(三)の理由によつて、福岡地方裁判所が昭和三五年五月一〇日になした執行命令は違法であるから、原決定は取消され、被申立人の本件申請は却下さるべきである。

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